USCPAの科目であるFARの概要、特徴、注意しておきたいポイント等をまとめました。
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FAR(Financial Accounting & Reporting)とは
FARとは財務会計のことで、米国会計基準に基づく企業会計の概念および国際会計基準(IFRS)の特徴と米国会計基準との差異について取り扱います。また、連邦・州・地方政府や非営利組織体に適用される公会計についても対象としています。
試験範囲
FARはUSCPAの4科目中で最も広く、ボリュームのある試験科目です。試験範囲と配点は以下のように分類されており、主にAreaⅠ~AreaⅢが企業会計、AreaⅣが公会計(連邦・州・地方政府)の範囲に該当します。
AICPAが公表しているFARの試験範囲について、以下、確認してみましょう。
注意:AreaⅠ~Ⅲに非営利組織体の範囲が含まれているため、正味の公会計の配分は”AreaⅣ(5~15%)+AreaⅠ~Ⅲの非営利組織体(+α)”が範囲になります。一般に予備校や他のブログでは公会計の範囲は20%としているところが多いですね。
予備校が開示している試験範囲
以下、アビタス社HPで公表しているFARのカリキュラム(試験範囲)について見てみよう!
- 会計の基本概念; 財務諸表(Basic Concepts; Financial Statements)
- 現金及び売掛金; 棚卸資産(Cash and Accounts Receivable ; Inventories)
- 棚卸資産(続き); 流動負債と偶発事象(Inventories (Cont.); Current Liabilities and Contingencies)
- 長期性資産(Long-Lived Assets)
- 貨幣の時間的価値; 社債会計(The Time Value of Money; Bonds)
- リース会計(Leases)
- 受取手形と支払手形; 収益の認識(Notes Receivable and Payable; Revenue Recognition)
- 収益の認識(続き); 退職給付会計(Revenue Recognition; Pensions and Postretirement Benefits)
- 株主資本(Stockholders’ Equity)
- 希薄化性有価証券と1株当たり利益(Dilutive Securities and Earnings per Share)
- 投資(Investments)
- 投資(続き); 税効果会計(Investments(Cont.); Deferred Taxes)
- キャッシュ・フロー計算書; 企業結合(Statement of Cash Flows; Business Combinations)
- 企業結合(続き)(Business Combinations (Cont.))
- 外貨建取引; 外貨建財務諸表の換算; 会計上の変更と誤謬の修正(Foreign Currency Transactions; Translation of Foreign Curreny Financial Statements; Accounting Changes and Error Corrections)
- IFRSの初度適用; その他の論点(First-time Adoption of IFRS;Miscellaneous Topics)
- 基本概念; ファンド会計; 政府の財務報告モデル(Basic Concepts; Fund Accounting; Governmental Financial Reporting)
- 予算会計; 政府型活動-収入・収益の認識; 政府型活動-支出・費用の認識(Budgetary Accounting; Governmental Activities-Recognizing Revenues; Governmental Activities-Recognizing Expenditures and Expenses)
- 政府型活動-資本資産取得と長期債務処理の会計; 政府型活動-その他のトピックス; 事業型活動と内部サービス; 恒久基金ファンドと受託会計区分(Governmental Activities-Accounting for Capital Projects and Debt Service; Miscellaneous Topics ; Business- Type Activities and Internal Services; Permanent Funds and Fiduciary Funds)
- 非営利組織; 非営利医療法人及び大学の特別な論点(Not-for-Profit Organizations; Special Issues for Not-for- Profit Health Care Organizations and Colleges & Universities)
上記の1~10(FAR1~3)はの範囲で財務会計の基礎的な知識を対象としています。11~16(FAR4)は応用的な財務会計の知識を対象としており、FAR1-10の理解した上で発展的な内容を題材としています。17-20(FAR5)については特徴的な公会計(連邦・州・地方政府、非営利組織)を扱っています。
AICPA の公表している試験範囲(概要)
以下、2018年1月時点のAICPA BlueprintのFARから、AreaⅠ~Ⅳの試験範囲(概要)を抜粋してみました。軽く目を通してみてください。
※一部、訳がわかりにくいところや読みにくいところがありますがご了承ください。 また、AICPA Blueprintsを実際に見ていただくと内容が理解できると思います。
AreaⅠ: Conceptual Framework, Standard-Setting and Financial Reporting
AreaⅠでは、FASBの定める概念フレームワーク・標準設定プロセス、いくつかの異なる財務報告のTopicが対象となります。財務レポートTopicには次のものがあります。
- FASBの定める米国会計基準(ASC:Accounting Standards Condification)の元で、営利目的事業体、非営利団体および従業員給付制度に適用される一般的目的の財務諸表(General-purpose financial statements applicable to for-profit entities, not-forprofit entities and employee benefit plans under the FASB Accounting Standards Codification)
- FASB ASCに従った1株当たり利益(Earnings per share)およびセグメント報告、U.S SEC下での規制のための年次及び定期的な報告要件を含む上場企業特有の開示(Disclosures specific to public companies including earnings per share and segment reporting under the FASB Accounting Standards Codification and the interim, annual and periodic filing requirements for U.S. registrants in accordance with the rules of the U.S. SEC)
- 監査基準書のAU-Cセクション800に記載されているような特定目的のフレームワークの下で作成された財務諸表(Financial statements prepared under special purpose frameworks as described in AU-C Section 800 of the Codification of Statements on Auditing Standards)
AreaⅡ: Select Financial Statement Accounts
AreaⅡでは、FASB ASCでの財務会計や財務報告要件が対象となります。
- 営利目的事業体および非営利事業体の状況下において、該当する範囲でエリアの各グループとトピックが試験において適格であること(To the extent applicable, each group and topic in the area is eligible for testing within the context of both for-profit and not-for-profit entities)
- 特定のグループまたはトピックの営利団体と非営利団体の間に重要な会計上または報告上の相違が存在する場合、そのような違いは、Blueprintsの非営利業務のRepresentative tasksに記載している(If significant accounting or reporting differences exist between for-profit and not-for-profit entities for a given group or topic, such differences are in representative not-for-profit tasks in the blueprint)
上記だけ見てもよくわからないと思いますので、もう少し深く解説してみます。
1つ目のポイントについては、”cash and cash equivalents”、”Account receivables”、”inventory”、”Properrty, plant and equipment”、”investments”といったトピックについて十分な理解があるかどうかが問われています。
2つ目のポイントについては、1つ目で述べた5つのトピックの中で、非営利企業特有の違いについてしっかり理解しているかが問われています。
AreaⅢ: Select transactions
AreaⅢでは、IASB standards及びFASB ASCの条件下での特定の取引における財務会計や財務報告要件が対象となります。
- IASB standardsの条件下での試験内容は、IFRSとU.S. GAAPの違いに限られる(The testing of content under the IASB standards is limited to a separate group titled, “Differences between IFRS and U.S. GAAP”)
- 営利目的事業体および非営利事業体の状況下において、残りのエリアのグループが試験において適格であること(To the extent applicable, the remaining groups in the area are eligible for testing within the context of both for-profit and not-for-profit entities)
- 特定のグループまたはトピックの営利団体と非営利団体の間に重要な会計上または報告上の相違が存在する場合、そのような違いは、Blueprintsの非営利業務のRepresentative tasksに記載している(If significant accounting or reporting differences exist between for-profit and not-for-profit entities, such differences are in representative not-for-profit tasks in the blueprint)
AreaⅣ: State and local governments
AreaⅣは、GASB standards and interpretationsの条件下での州・地方政府の財務報告、報告要件やGASB Conceptual frameworkについてが対象となります。
特徴①:圧倒的なボリューム
FARの特徴としてまず上げられるのが試験範囲が非常に広く、圧倒的にボリュームがある点です。
他のAUD、BECの試験範囲のボリュームに比べて、FARのボリュームは感覚的に約2倍はあると思います。前提とする会計の知識により、大きく学習に必要となる時間が変わりますが、一般に会計知識があまりない人にとって、USCPAを合格する上で最も勉強することになるのはFARです。
FARのボリュームの多さから適切なタイミングで復習をしていないと、「改めて論点を確認してみたら、知識が頭からすっぽり抜け落ちていた」なんてことが多発します。しっかりと適切なタイミングで復習するよう心がけたい科目です。
特徴②:英語力より会計知識が重要
FARはAUD等と比べると比較的に英語力を必要としない科目です。ベースの英語力がそこまでなくても会計知識と英語の会計用語があれば十分に合格できる科目です。
そのため、経理の方、簿記1級を取得している方、日本国公認会計士の方は、英語の会計用語、IFRS・US GAAPの違い、公会計を押さえれば、問題演習(MC、TBS)を中心に行い、比較的短期間で合格レベルに達することができるはずです。
一方で、英語力はあるが会計知識(簿記2級未満)がない人にとって、最も苦労する可能性が高いのがFARです。
しっかりとした理解が伴わずMC問題の演習だけしていると、正答率があがってきたとしても、簡単な仕訳が切れず、TBSではまったく回答できない事態になること必須です。普段からMC問題を解く際に仕訳までしっかりとイメージして、回答することが重要です。
試験範囲も膨大であるため、USCPA受験者全体の合格率ではFARが44%前後と最難関の科目(アメリカ人にとって)として知られています。一方で、日本人にとって、比較的に合格の難易度は低めで合格率が高いと言われています。これは受験者の中で既に会計知識を持った人が多いこと及び高い英語力が求められないことに起因すると考えられます。
特徴③:FARは全ての科目の土台
他の全ての科目でFARの知識は活きてきます。特にBEC、AUDでは、FARの知識がないと解けない問題が普通に出てきます。FARは全ての科目の土台であり、FARのしっかりとした知識なくしては、BEC、AUD、REGでの合格は難しいでしょう。
そのため、当然のことながら、USCPAの学習する順番としては、まずは何が何でもFARから取りかかりましょう。
特徴④:意外に注意が必要な公会計
AICPA BlueprintのAreaⅣ:公会計のところを確認してみると、Analysisレベルの問題は出題されません。また、非営利組織についても同様で、AreaⅠ~Ⅲに記載されているnot-for-profit entityについてのRepresentative taskは、Applicationレベル以下の問題が出題されます。
そのため、公会計(州・地方政府)はAnalysisレベルが多く問われるTBSで出題される可能性は低く、出たとしてもApplicationレベルの問題(MC問題を組み合わせたTBS)になります。
逆に言うと、公会計(州・地方政府)の出題のメインはMC問題で出題されやすい傾向にあると推測されます。公会計(州・地方政府)は全体に占める割合は”5~15%”ですので、実質的にMCでは感覚的には20%前後出ているように感じる可能性が高いことがわかります。
また、非営利組織は、AreaⅠ~Ⅲに含まれますが、Representative TaskはApplicationレベル以下のため、同様にMC中心で出題されやすい傾向にあると推測されます。
TBS問題の難易度が高く、MCでしっかりと点を取れていない場合、TBSで挽回は難しい可能性が高いです。そのため、MCでしっかりと得点を積み上げるには、MCで20%前後出てくる可能性の高い公会計の対策は必要不可欠です。
アビタス社のT氏曰く、「公会計は計算問題がほとんど出ないので、ここで時間を節約するのがよい」とのことです。
また、公会計もTBS問題に出ているとの声もあるので、ここではTBSに出ないと言っているわけではないので注意頂きたい。MC問題であまり出題されず、TBSで出題される可能性もある。
特徴⑤:IFRSは頻出トピック
AreaⅢのところで記載しましたが、IFRSとU.S. GAAPの主要な違いについては、AreaⅢの重要論点(AreaⅢの概要のひとつ)になります。配分がどれだけあるかは、なんとも言えませんが、FARを受験された方や僕の試験を受けた時の内容を考慮すると、結構、IFRSの論点は聞かれます。
IFRSの重要論点のところは、しっかりとU.S. GAAPとの違いを意識して、学習しておく必要があります。細かいところを覚えておく必要があるため、受験直前のタイミングでも意外と手薄になってしまいがちですので注意が必要です。
特徴⑥:試験時間が圧倒的に足りない
FARでは、試験時間の4時間ではかなり、素早く回答していかなければ、時間がなくなってしまいます。普段、ノートと電卓を使って問題を解いている方は、テンキーを使って素早く解く練習も必要です。
FARではしっかりとMCとTBS問題を解き込み、問題文を読み終わったら、即座に解き始められるだけ、しっかりとアウトプット重視で学習を進める必要があります。
試験当日のタイムマネジメントも非常に重要です。試験本番の時間が足りない環境下で、集中力を切らさずにベストのパフォーマンスを出せるように、体調管理を万全にして試験に臨みましょう。
特徴⑦:本番のTBS難易度は高め
新試験制度(CBT3)になってから、TBSの配分は35%→50%になり、TBSの重要性は非常に高くなってきています。実務を意識したAnalystisレベルの問題が出題されるようになり、TBSの難易度は以前より難しくなっていると言えます。
AnalysisレベルのTBS問題は、AreaⅠ、Ⅱの範囲から頻出で、Analysis tasksの21論点/25論点中がAreaⅠ、Ⅱに集中しています。
TBSの出題では、参考資料として賃借対照表(B/S)、損益計算書(I/S)、株主持分計算書(SSE)、キャッシュフロー計算書(C/F)から情報を読み取り、回答できるレベルが必要になりますので、TBSの難易度はMCと比べるとかなり高めと言えます。
TBSは、基本はMCレベルの積み重ねになりますが、参考資料のB/S、I/S、SSE、C/F、メール、その他ドキュメントから時間内に必要な情報を把握して、解釈する総合問題への対応が必要になります。
また、色々なサイトで合格者の方のコメントを見ると、「FARではTBSで結構失敗したと思っていても蓋を開けてみたら高得点で合格していた」といった声が多いように思います。
2017年4月より新試験制度(CBT3)なってからもTBSが難化傾向にある中で、AICPA の公表する合格率はほとんど変化がないため、恐らく以前よりTBSでミスをしているものの、偏差的には合格水準に達しているため、意外に高得点で合格していたケースが想定されます。